【この記事は2021年7月に書かれたものです】
今回の熱海の土砂崩れの話題の中で「メガソーラーが原因ではないか」という憶測がSNS上で飛び交っていますが、Twitterを眺めていたら「高圧ではなく低圧11区画ではないか?」というTweetが流れてきました。(※現時点ではまだ確認がとれていませんし因果関係があるとは限りません)
高圧だろうが低圧だろうがソーラーはソーラーだし、並べてる枚数も規模も同じなんだからどっちでも同じじゃない?と思うかも知れません。
ですが、実は大違いです。ヘタをするとメガソーラーのほうが安全だった可能性まであります。
ということで、順を追って説明していこうと思います。まずは前提から。
そもそもメガソーラーとは?
メガといえば100万(10の6乗)を表すSI接頭辞。太陽光の場合は100万ワットということですね。
1MWも発電する太陽光発電施設なので、ソーラーパネルも多く必要。もちろん大きな敷地が必要になります。そうなるとやはり土地が安いほうが良いので、山林を切り開いて設置されたりすることもあり近年問題視されています。
さてこのメガソーラー、イメージだけで「太陽光パネルが一杯並んでいる発電施設」をメガソーラーと呼んでいる方が多いですが、実は間違っています。
一見メガソーラーに見える低圧分割区画の集合体の謎
航空写真では1つの大きなメガソーラー区画に見える太陽光発電施設ですが、実は細かく区切られていいることがあります。その場合はフェンスで区画を区切っていることが多いので、現地で目視すると判別できることも。(現地には標識があるはずなので慣れた方が現地に行けば1発で判別できます。他にも高圧ならかならずあるはずのキュービクルの建物とか)
理由は後述しますが、それぞれの所有者は別の人になっていることがほとんど。実際は名義をうまくやりくりして同じ人に利益が入るようになってたりすることもありますがそれは裏の話です。
1つの大きな区画にしてメガソーラーをやれば、間にフェンスを建てることもないし、土地や施設の名義がどうだと煩わしいことを考える必要もないはずなのに、なぜわざわざ分割したのでしょうか?
高圧・特別高圧は手続きがとても大変
太陽光発電所は出力によっていくつかに分けられます。
50kW以上になると高圧、さらに2000kWを超えると特別高圧という区分にされますが、この高圧と特別高圧の太陽光発電所を設置するのは手続きがとても大変なのです。
一般的な低圧の太陽光発電施設では必要がない有資格者の届け出や、維持・管理の詳細を詰めた事業計画、消防への届け出など、やるべきことが一気に煩雑になるのが高圧の発電施設。周辺住民への説明会が必要なこともあります。
一度に開発する面積が大きくなるので、山林の開発許可も関わってきます。その中で
- 土砂の流出、崩壊その他の災害のおそれがあること
- 水害のおそれがあること
- 水の確保に著しい支障が生じるおそれがあること
- 環境の保全に著しい支障が生じるおそれがあること
などの問題点に対して適切な対策を計画していないと許可が降りません。
たびたび話題になるメガソーラーですが、この開発許可は一応クリアしてるわけです。(現状の許可の基準が正しいかどうかは別の問題として)
この大変な基準に縛られずにクリアできるのが低圧分譲案件。本当にうまくやられるとですけどね。(ねんのため細かい手法は伏せておきます)
高圧のメガソーラーだと大変なので、区切って低圧として売っていた
実は2020年のFIT法改正で出来なくなったためこの方法は“新規で全く同じようには”もう使えませんが、以前は大きな1つの区画をバラバラに区切ってたくさんの低圧の発電施設にして売っていました。
低圧の定格出力が50kW未満なので、パワコンがギリギリ50kWを切るようなパネル枚数になるように土地の大きさを綺麗に調整して。(私がよく知っている時期だとパネルは81kWくらいの過積載が流行りだったため991㎡くらいで)
こうしてしまえば、高圧をやる場合に必須だったような厳しいチェック項目をほとんどスルーできます。低圧でもいくつかは気をつけなければいけないポイントもありましたが、本当に大変なところは大体スルーです。低圧案件では近隣住民への説明会なんてまず要らないですから。
あと業者が個人投資家に売るときも楽です。2000万円くらいなら本業が普通のサラリーマンでもローンが通ってしまいますが、高圧のように億単位になってしまうと一般の方には買えません。
この仕組みを悪用して荒稼ぎする業者も居たので、対策として「分割した土地の名義が同じ人の場合はダメですよ」といったルール(厳密にはもう少し細かいです。名義を一定期間遡ったりもしますし)も追加されたのですが、業者もプロなのでうまいことやりくりして続けてたのが太陽光業界。
メガソーラーの方が厳しい開発許可を取っている分まだマシかも
というわけで、業者さんが割とやりたい放題だった過去の低圧分譲区画の方が怖いかもしれないわけです。
なにせメガソーラーと同じだけのソーラーパネルが並んでいるのに、メガソーラーと違って厳しいチェックを受けていないわけですから。
SNSを見ていると「メガソーラーが危険!」と言っている人が多いですが、本当に危険なのはメガソーラーと同じ規模の施設なのにメガソーラーの様に厳しいチェックを受けていない施設なのではないか?と思っています。(現状のメガソーラーの許可の厳しさが適切かどうかはまた別の問題として)
太陽光が安全とは言いませんが、何も知らずにただ危険!危険!と騒ぐより、一度きちんと勉強してみてから「正しく恐れること」が大事だと私は思っています。
おわりに
メガソーラーが安全かどうかや、現在の開発基準が本当に正しいかは別問題として、実際にはメガソーラーよりもっと危ない太陽光発電施設があるかもしれませんよ、というお話でした。
電力会社や国も年々いろいろな対策を繰り出していますが、それをなんとかして回避しようとするのが商売をする人たちのやることですから。
一番の問題点は、為替や株と違って「やれば誰でも同じように儲かる」という仕組みになってしまっていることなんでしょうけど。
もし儲からなくなるとしたら「太陽が昇らなくったとき」でしょうが、その場合は儲かっていてもいなくても人類が滅亡しているでしょうからお金なんてどうでも良いはず。電気を買い取ってもらえなくなる危険性に関しては、一定期間法律で保証されているので問題ありません。低圧分譲なら20年固定価格保証です。
そんなわけで、お金を儲けたい人たちはまだまだ太陽光で頑張ることでしょう。
なにせ全量売電できないように法改正されたはずの低圧の太陽光発電施設を、今でも買う方法があるくらいですから。(ここでは書きませんけど)